マスター

私は・・・マスター

本名で呼ばれるよりも、その名で呼ばれる回数の方のが、もう多くなってきているし、私の名前を知っている者など、最近ではみかけなくなった

私的には、本名で呼ばれる方が、逆に違和感さえ覚えてしまう・・・
先日、銀行の窓口で、3度名前を呼ばれて、ようやく私の事だと気が付いたくらいだから、もう筋金入りかもしれない

そんなマスターと言う名を、誰よりも欲しいままにしている私にも、気になる事がある

それは・・・最近、私の店にちょくちょくと顔を出すようになった、年齢にしたら40歳くらいのサラリーマンだ
たまに店内で話す携帯電話の口調から、地元の人間ではないのは、すぐに分かった
この地区はサラリーマンが多い
たぶん、彼も長期の出張か何かで、この地区に住んでいるのであろう
平日の朝早くに、このお店に来ては、一杯のコーヒーを飲んで出かけていく

私はこの喫茶店の店主
彼はそのお客さん

それだけの関係だ

だが、彼を見ていると、私が若かった頃の、まだサラリーマンをしていた頃を思い出す
あの頃は、本当に何かに追われるように、日々の業務をこなし
会社の後輩、先輩の面倒まで見てきた

そんなお節介ぶりがたたったのか・・・
心労の多い仕事ゆえだったのか・・・身体を壊してしまい
ある日のこと、突然、意識を失い・・・

目を覚ますと、病室だった

己の身体にムチを打ち続け、働く事が、全てだった、仕事人間だった私は、ついに、線路から脱線してしまい、戦線離脱となった
主治医からは、今までこんな身体で、よくここまで働いてきたモノだ~
と感心されてしまくらいに、私の身体は限界に達していた

まだ、40代という働き盛りだった私は、その病気を機に、早期退職制度を利用して
会社を辞めた・・・大英断であったが、後悔はしていない

そして、働くサラリーマン達の憩いの場となれば・・・との思いで、この町で喫茶店を始めた

何とか起動に乗り始めた15年目に、昔の私を思い出すような、サラリーマン風の彼が店に現れた・・・

時代は回っている
そして、繰り返される

彼には、何とか、私と同じ轍を踏んでほしくない
そんな想いが、マスター40年の魂に火を点けたのであった・・・

私の喫茶店のレジ横には、小さな箱が置いてあり、その中にはお気持ち程度ではあるが、ご自由にどうぞ~と飴玉が入れてある

ほとんどが、大人なお客さんが多いので、その飴玉はあまり減らないのだが、何故か、疲れた彼は、その飴玉を1個ずつ貰っていく
家に小さな子供でもいるのであろうか?
愛する妻がいるのであろうか?
そんな詮索は、必要ない

私のマスター魂に影を落とすだけだ・・・

マスター歴40年
中学校の頃には、すでにマスターと呼ばれ、全校男子から現人神と崇められていた私が
人生を賭けて選んだ珠玉の作品を味わうがよい・・・

これを味わい・・・癒されるがイイ!

至高の1本・・・ここに降臨す!!!!


時は来た


週末土曜日の昼前後
休日の日は、彼は必ず1杯のコーヒーを飲みに来る

男同志に声など、いらぬ
ただただそれを手に取れば、至高の作品である事は、嫌でも分かるはず!

疲れたように見える彼は、いつもの席に座りコーヒーを飲み
レジまでやって来た

私は、いや、この時だけは、喫茶店の店主ではなく、中学高校とマスターとの名を欲しいままにしたセレクトショップの店員さんの気分だ!

さぁ!いつものように、飴玉箱に手を伸ばし、至高の作品を手にするがイイ!!

そう、疲れた彼は
まるで甘美な小悪魔の誘いでも受けるかのように・・・
当然の如く、それを手にした

そうだ!
それでイイんだ!
そのまま、持ち帰り、欲望がおもむくままに行動すればイイ!
お前は都会に放たれた一匹の獣なんだ!

WHY!?

私は生まれて初めて、目を白黒させた

今、目の前で有り得ない事が起きている

彼はまるでその行動が約束されていたかのように、一旦それを手にしたが

なっ、なんと・・・懐に忍ばす事なく・・・再び箱に返してきたのだ~~~

わっ・・・私の目に狂いがあったとでも言うのか?!

どうして持ち帰らない!!!WHY?!

もう380円のコーヒー代なんて、いらない!

今、欲しいのは、私の40年間のマスターとしてのプライドだけだ!!!!
頼む、思いとどまって、再び至高の作品を手にして、持ち帰ってくれ

だが、現実とはなんと厳しいことか・・・
彼はまるで何事も無かったように、平静を装ったまま、店を出ていった
振り返る事もなく

完敗だ

マスターという称号を長きに渡って守り続けてきた、この40年間無敗のチャンピオンが、今、負けた

もう、引退しかない・・・か

確かに年齢も55歳となり、そろそろ引退も考えつつあった時期でもあった
隠居して、ゆっくりと自分のためだけの至高の1品を探すのも良いと、思っていた時期もあった

だが、勝ち続けるが故に、隠居を考えても、引退する事は出来なかった
中学校からの負けずのプライドが、それを許さなかった

でも、今日、気持ちイイくらいに、負けた

そう、負ける時は、こんなものだ
手こずる訳でもなく、結構アッサリと負けるモノなんだナ

何か、重い荷物が肩から降りたようで、清々しい気持ちになってきたヨ
ありがとう、彼よ
これで気が楽になったヨ

セレクトマスターはこれでおしまいだ

でも、何がダメだったのだろうか?

至高の作品

GO!GO!マジックミラー号 車検間近!?

セレクト マスター的にはアリだと思うのだが・・・
やはりナシだったのかな~

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